バッグを受け取っていただいたN様から昨晩、メールを頂きました。

「モノトーンの中に墨絵のように様々な黒の表情が豊かに見えて、メタリックだけれどすごくシックです。細部まで考え抜かれたバランス、素晴らしい!

N様はジュエリーのプロなんです。すごく目が肥えておられることは、長い間のメールのやり取りで、ひしひしと感じ、一筋縄ではいかないなあ・・・正直プレッシャーがすごかったです。これは、私にとって、またチャンスでもあると思いました。
ああでもない、こうでもない、試行錯誤の末、ついに自分でも満足のいくものが仕上がりました。革の魅力、端っこの美しさをとことん追求できたこと、今回もお客様に育てていただきました。
オーダーは正直しんどい仕事です。お客様の好みを優先しなくてはいけない。けれど、大半のお客様はsolusの世界に惚れて、私のところにやってこられます。だから、自分を無にしておつくりするオーダーではないのです。私の感性を最大限生かしながら、お客様の感性に歩み寄り、その接点で未知の高いところを目指さないといけません。妥協したり、変に気を使って合わせたりすると、あっという間に「もの」に現れてしまいます。自分のやりたいことを提案して、断られた時、次は微妙なところで案を出してしまう。すると、そこから手が進まなくなる。オーダーのしんどいところです。自分の引きだしの大きさを試されます。大半のクリエイターがオーダーをやらなくなるのは、膨大な労力が、物理的にも精神的にもかかるからです。なので、基本形をつくり、革を選ぶ、大きさを選ぶというようなセミオーダーが主流になっています。私自身は正直、オーダーじゃない仕事の方が好きです。圧倒的にストレスが少ないからです。時間的にもはるかに楽ですから。でも、私がここまで成長してきたのは、オーダーをこなしてきたからです。自分がつくってきたものを見て、惚れて扉を叩いてくださった方に過去のものと同じものをおつくりするのではなく、さらにランクの高いもの、というか、その方に寄り添ったものをご提案できるなら、それは、自分を磨けるすばらしいチャンスになるのです。

ただし、お会いしたことがない方のオーダーは、やっぱりむずかしいですよ。自分が知りえた少ない情報で好みを想像して進めていかないといけないので。しかし、ありがたいことです。会ったことがない私を信頼して、任せてくださるのですから。
この写真はバッグの側面から。私の一番お気に入りの肩ストラップと、かぶせの端っこ。
柔らかい革、腰のある革、その特性を生かし、縫ったり、結んだり。
私にとって、バッグの制作は、「造形」です。